アカデミック・ビュー Vol.01

視点取得(パースペクティブ・テイキング)とは

トビラボの教育プログラムは、俳優の演技システムを基盤として開発されていますが、社会心理学の理論にも則っています。理論的支柱として位置づけているのが、『視点取得(パースペクティブ・テイキング)』という概念です。トビラボの独自メソッドを『パースペクティブ・テイキング・メソッド(PTM)』と呼んでいるのは、このためです。

視点取得は「自分が他者の立場にいると想像する認知的行為」と定義されています[1]。また、「優勢で自動的、自己中心的な視点を離れ、それとは別の視点から出来事、他者、自己を眺め理解する認識作用」という定義もあります[2]。いずれにしても、自分の視点ではなく、他者の視点で物事を見ることです。

例えば、友人とテーブルを挟んで向かい合っていたとしましょう。あなたには、友人や友人の背景にあるものが見えているでしょう。では、友人には何が見えているでしょうか。おそらく、あなたやあなたの後ろにあるものが見えているでしょう。こうした空間に関わる他者の視点を想像することを空間的視点取得と言います。

次に、そのテーブルには赤いりんごが置いてあったとしましょう。おなかが減っているあなたは、「食べたいなあ」と食物としてりんごを見ているかもしれません。しかし、りんご農家で育った友人は、同じりんごを見て、実家を思い出しているかもしれません。こうした、他者の考えや気持ちを想像することを社会的視点取得と呼びます。以前は、役割取得と呼ばれていました。

トビラボの教育プログラムは、空間的視点取得の能力はもちろん、社会的視点取得の能力も高めるように工夫されているのです。


[1] Davis, M. H. (1983), “Measuring individual differences in empathy: Evidence for a multidimensional approach,” Journal of Personality and Social Psychology, Vol.44, No.1, 113-136.

[1] 平田万理子(2006)「パースペクティブ・テイキングのありようが自己差異性の知覚に及ぼす影響 -PT尺度との関連から-」昭和女子大学生活心理研究所紀要、Vol.9.