アカデミック・ビュー Vol.03

《視点移入と視点共存》

 

みなさんは、新入社員の頃、先輩や上司のモノの見方に違和感を持ったことはありませんでしたか。しかし、3年も経過すると、彼らと同じようなモノの見方をしている自分に気づきます。他者の視点取得をしていると、自己の視点に他者の視点が入り込んでしまいます。今回は、自己の視点と他者の視点の扱いに関する概念をご紹介しましょう。それらは、「視点移入(import)」と「視点共存(symbiosis)」です。

視点移入とは、自己の視点に他者の視点を取り込んでしまう認知傾向です。自他の弁別をあまり意識することがありません。冒頭の例は、視点移入の典型例でしょう。1990年代にケビン・コスナー主演の「ダンス・ウィズ・ウルブス」という映画がありましたが、米国の南北戦争が舞台で、北軍の軍人がネイティブ・アメリカンのスー族と交流し、徐々に相互理解が深まり、最後はスー族の一員となって「狼と踊る男」という名前をもらうというストーリーでした。この映画では、白人の主人公が、スー族の視点取得をしていきますが、視点移入が強くなってしまい、白人の視点に戻れなくなってしまいます。

一方、視点共存は、自己の視点と他者の視点を弁別し、両方を考慮して物事をとらえようとする認知傾向です。他者の視点を取得するものの、自己の視点との差異を感じることができます。参与観察をする研究者は、研究対象となる社会に数か月から数年間滞在し、その社会メンバーの一員となって生活しながら、直接観察していきますが、研究者としての視点を維持しながら観察します。自己視点と他者視点との差異に新しい発見の芽があるわけで、視点移入してしまうと、何も疑問を持つこともなく過ごしてしまいます。

俳優たちは、配役の視点はもとより、相手役の視点、演出者の視点、聴衆の視点など、複数の視点を共存させて演技をしています。トビラボのプログラムは、軽快に視点シフトできる能力の向上を目指しています。